パッケージ幸福論  中島 信也 Shinya Nakajima

鹿目尚志先生が「君たち展覧会をやれ!」と突然叫ばれたのは2008年のことでした。僕は鹿目先生から展覧会ディレクターを任命され、以来ああでもないこうでもない、と右往左往、試行錯誤を重ね、毎年毎年みんなと展覧会を作り上げて来ました。
 「パッケージ幸福論」これはただの作品発表会ではありません。僕たちが、人間が、生きていく上で「デザイン」とは一体どんな意味を持っているのか? それは人類の幸せとなにか関係しているのか? そういう観点で自分たちの生業である「デザイン」をとらえてみたい。そのためには今自分たちのまわりで何が起こってるのか、社会はどうなっているのか、ということを見つめた上で展覧会を作っていこうよ、これが「パッケージ幸福論」の思いです。
 僕たちは「デザイン」を止めません。営業からの要請を受けたベタベタな商品デザインかもしれない。でもそこにしぶとく「少しでも良いデザイン」を体現させようとします。「アート性はいいから売れるデザインを作ってくれ」と言われても、しぶとく「少しでも良いデザイン」を体現させようとします。「今はデザインどころじゃないだろ!」と怒られても「デザイン」をやめない。このしぶとさを持ち続けるべきだ、と僕は思うんです。
 こんな時にしぶとく「デザイン」すること。これは「勇気」です。でも「デザイン」がきっとみんなを幸せにする、僕たちを幸せにする、ということを、頭じゃなくて、心でわかってるから僕たちはしぶとく「デザイン」を続ける。「デザイン」は未来を明るく照らすものなんだ、と心から信じてるからこそ僕たちはしぶとく生きていくんです。

パッケージ幸福論2020「デザインは勇気の灯火」より 一部抜粋

1959年 福岡県八女市生まれ大阪育ちの江戸っ子
1982年 武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒 株式会社東北新社入社
1983年 ナショナル換気扇でテレビCM演出家としてデビュー
1985年 鹿目尚志氏ご媒酌によって結婚
1990年 フジテレビ「ロイド」で東京ADC賞最高賞受賞
1992年 日清食品カップヌードル「hungry?」でカンヌ広告祭グランプリ受賞
2003年 サントリー「燃焼系アミノ式」でACCグランプリ・総務大臣賞受賞
2006年 サントリー「伊右衛門」で東京ADC賞グランプリ受賞
2007年 資生堂企業CM「新しい私になって」でADC会員賞受賞
2008年 斉藤和義「やあ無情」作詞にて日本レコード大賞優秀作品賞受賞
2008年〜「パッケージ幸福論」展覧会ディレクター

現:CMディレクター/株式会社東北新社 取締役副社長、武蔵野美術大学客員教授・理事、東京アートディレクターズクラブ会員

クリエイティブということ  鹿目 尚志 Takashi Kanome

パッケージデザイナーはどこかでクリエイティブというものを感じて欲しいと思う。こういう時代だし、パッケージをやっている以上はどうしても売れなければいけないという使命を課され、必ずしもいいものが売れるわけでもないなかで、なかなか自分たちのクリエイティビティを出すのは難しいと思います。展覧会をやることが何が何でもいいと言うつもりもありません。それでも何らかの方法で自分たちのクリエイティビティの方向をしっかりと持ってほしいと思います。
 「オレはアーティストじゃないから」とよく言うけれど、デザインの中にアートというものがなければ、僕はデザインじゃないと思います。アートはデザインの中になければならないと僕は思っているから。だからまずアーティストでなければいけない、アーティストであるうえで「デザインとはなんだ」と突き詰めて戦っていかなければならないと思う。
 果たしてその接点を皆が追求しているのかどうか。そのギリギリのところで闘っているのかどうかです。
 もちろん、ただ売れているだけではダメ。売れて、しかもデザインとして素晴らしいというのは何なのか、ぎりぎりのところを皆は果たして求めているのか。その疑問をいつも感じています。皆集まって仲良し集団でワーってお酒を飲んでいるだけではダメ、やはり戦いの場なのだからお互いが戦っていなければいけない。そのためにも自分自身がまず闘わなければいけない。「アートのないデザインは許せない」というくらいに真剣になってほしいと思います。
 そんなことばかり言っていると「お前はもういらない」とパッケージ業界では言われてしまいます。そういうところだと思います。でも、それに妥協するのではなくアートを込めた作品が売れるところまで追及してほしい。苦しみを経て「これはオレの作品だ」と言えるところまで追及してほしい。一人ひとりが本当に突き詰めて欲しい。デザイナーと言われる以上、そうあってほしい。
 なかなかそうできるものではないとわかってはいますが、常にその問いかけを自分の心の中に置いて仕事をしてほしい。僕はもう88歳、もう間もなくいなくなります。だからこれは僕の最後の言葉として。

JPDA西日本 まえむきvol.4「88歳がなんぼのもんや! 鹿目尚志のアッカンベー寿」講演より/2015年2月6日

1927年 北海道生まれ
1950年 東京美術学校(現東京芸大) 油絵科卒
1977年 ニューヨークADC銀賞
1981年 北海道立近代美術館「遊びの木箱展」朝日新聞社賞
1989年 ジャパンパッケージングコンペティション 通商産業大臣賞
1992年 ADC賞
1992年 日本パッケージデザイン大賞展 金賞・銀賞
1992年 GGG 鹿目尚志個展
1998年 鹿目尚志作品集「カ」出版(六耀社)
2013年 日本パッケージデザイン功績賞
2017年 もてぎハローウッズの森・ギャラリー5610かのめのめ展
同年9月 享年90歳 逝去

2006年から17年までギャラリー5610にてパッケージ展総合プロデュース